脳卒中のこと
2026.01.12
【理学療法士が解説】脳梗塞後の手の麻痺(痙縮) ~正しい知識とケア~
「麻痺した手が握ったまま開かず、爪が食い込んで痛い」
「動かないからと、ついついポケットに入れたままにしてしまう」
脳卒中後にこのようなお悩みの方は少なくないと思います。
脳卒中後の上肢(手・腕)の麻痺は、足の麻痺に比べて回復に時間がかかることが多く、日常生活での不便さを強く感じさせる悩みの一つとして多いのではないでしょうか。
「もう動かないかもしれない」と諦めてしまう前に、正しい知識とケアを知りましょう。
手は「触れる」「持つ」「支える」など、世界とつながるための大切な道具です。
目次
痙縮の正体
痙縮とは?
脳卒中後の痙縮(けいしゅく)とは、脳卒中で脳がダメージを受けたあとに起こる、筋肉が必要以上に緊張して硬くなる状態のことです。そのために、自分自身の意志とは無関係に手足の筋肉が強く突っ張ってしまったり、手指が勝手に曲がってしまいます。これは、脳からの「筋肉を緩めなさい」というブレーキの指令が届かなくなり、アクセルが踏まれっぱなしになっている状態です。
痙縮の原因
痙縮は、脳卒中によって脳が損傷され、本来は筋肉の動きを調整して力を抜かせるはずの「抑制する指令」がうまく伝わらなくなることで筋肉が興奮しやすい状態となり、筋肉が伸ばされたときに起こる反射が必要以上に強く出てしまい、その結果として少し動かしただけでも筋肉が勝手に強く縮み、さらに時間の経過とともに筋肉や関節が硬くなって、より強く感じられるようになるために生じます。

手の痙縮の症状
手に痙縮が生じると、指や手首の筋肉が過度に緊張し、指が握り込まれたまま開きにくくなったり、手首が内側に曲がって戻しにくくなったりします。そのため、自分の意思で指を一本ずつ動かすことが難しくなり、手を伸ばそうとすると強い抵抗やつっぱり感を感じることがあります。
また、無理に開こうとすると痛みを伴うこともあり、爪が手のひらに食い込んだり、汗や汚れがたまりやすくなったりすることで皮膚トラブルや不快感が生じる場合もあります。こうした症状は、箸やスプーンを使う、コップを持つ、ボタンを留める、字を書くといった細かな手の動作を困難にし、利き手であっても実用的に使えなくなることがあります。
さらに、手を十分に開けない状態が続くと、清潔保持や爪切りが難しくなり、介助が必要になる場面が増えるなど、日常生活の自立度に大きく影響します。
間違った痙縮のケア
硬くなった指を見て、無理やり外側に引っ張って伸ばそうとしていませんか…?
痙縮のある筋肉は非常に刺激に敏感な状態になっており、筋肉には「急に引っ張られると、反射的に縮こまって自分を守ろうとする」という性質(伸張反射)があるため、力任せに指を開こうとすると、筋肉はさらに強く収縮してしまいます。
その結果、痙縮がかえって強まるだけでなく、筋肉や腱、関節を痛めたり、痛みや恐怖感からその後のケアやリハビリがより難しくなったりする原因にもなります。痙縮のケアでは、「強く引っ張る」ことよりも、「ゆっくり・やさしく・時間をかけて」筋肉を落ち着かせる関わり方が重要です。

正しい痙縮のケア
〜硬くなった手足を「緩める」〜
ケアの基本はリラックスと根元からのアプローチです。
まずは温める
筋肉は温めると緩みやすくなります。お風呂の中でゆっくり温める、ホットパックを使う、蒸しタオルで包むなどが効果的です。
優しく触れる
強いマッサージは逆効果です。手のひら全体で、腕の内側をゆっくりと撫でるように触れて、感覚を入れてあげましょう。
手首から伸ばす
指先からではなく、「手首」からアプローチします。
1. テーブルの上に手のひらを下にして置きます。
(指は曲がったままでもOK)。
2. 肘を伸ばし、体重をゆっくりと腕に乗せていきます。
3. 手首が反ることで、連動して指の筋肉も緩みやすくなります。

手を使わないとどうなる?
「動かないから使わない」
これは一見すると当たり前のことのように思えますが、脳にとっては非常に危険なサインです。手を使わない期間が長くなると、脳の中にある「手を動かすための地図(運動や感覚をつかさどる領域)」が徐々に縮小してしまい、たとえ後から筋力や可動性が回復してきたとしても、脳そのものが手の使い方を忘れてしまっている状態になります。これを学習性不使用と呼びます。学習性不使用が進むと、手を使わないことで動かしにくさや痙縮が強まり、さらに手を使わなくなるという悪循環に陥りやすくなります。
この悪循環を断ち切るために大切なのは、「うまく動かせるかどうか」ではなく、手が十分に動かなくても日常動作の中に参加させることです。支える、触れる、押さえるといった小さな役割でも手を動作に関与させることで、脳に「この手は使われている」という情報が入り、手と脳のつながりを保ちやすくなります。こうした積み重ねが、痙縮の悪化を防ぎ、将来的な手の機能回復につながる重要な土台となります。
麻痺手を補助手として使う
補助手とは?
補助手とは、麻痺や痙縮などによって細かな動きが難しくなった手であっても、「主に動かす手(利き手)」を支えたり、動作に参加したりする役割をもつ手のことを指します。たとえば、物を押さえる、支える、安定させる、位置を整えるといった動きが補助手の役割で、巧緻な操作ができなくても十分に意味があります。補助手として手を使うことで、日常生活の中に自然にその手が組み込まれ、使わない状態を防ぐことができるため、学習性不使用の予防や痙縮の悪化防止にもつながります。
また、「動かす」ことが難しくても「関わらせる」経験を積み重ねることで、脳に手の存在を意識させ、将来的な機能回復の土台を作る重要な考え方です。
補助手としての活用アイデア
麻痺した手を「主役」ではなく、健側を助ける「名脇役」として参加させましょう。
● 読書やスマホ:
本を開いておく「支え」として、麻痺手をページの上に置く。
● 食事:
食器を持つことはできなくても、テーブルの上に手を置いておく(これだけで姿勢が安定します)。
● 家事(拭き掃除):
雑巾の上に麻痺手を置き、その上から健側の手を重ねて一緒にテーブルを拭く。
● 整容:
洗顔の際、麻痺手に向けて顔を近づけて洗う。「そこに手がある」と脳に意識させること。感覚刺激を入れ続けることが、再学習への第一歩です。
ボツリヌス療法
ボツリヌス療法とは?
ボツリヌス療法とは、リハビリや内服薬だけでは筋肉の緊張(こわばり)が十分に和らがず、着替えや手洗い、清潔動作などの日常生活に支障が出ている場合に、医療機関で検討される治療法のひとつです。

一般には「ボトックス治療」と呼ばれることもあり、痙縮のある筋肉に対して、筋肉を過剰に緊張させている神経の命令を弱める薬を注射し、局所的に筋肉を柔らかくすることを目的としています。
この治療によって、筋肉が常に縮もうとする状態が和らぎ、関節を動かしやすくなったり、痛みやつっぱり感が軽減したりする効果が期待できます。効果はおおよそ3〜4か月程度持続しますが、これは単に筋肉を「休ませる期間」ではありません。筋肉が柔らかくなっているこの時期は、手を開く練習やストレッチ、日常動作への参加といったリハビリの効果を高めるための重要なチャンスでもあります。ボツリヌス療法は単独で完結する治療ではなく、リハビリや日常生活での使い方と組み合わせることで、痙縮による困りごとの軽減や機能改善につなげていく治療法です。
ボツリヌス療法で期待できる効果
ボツリヌス療法の大きな特徴は、筋肉が一時的に柔らかくなることで、「リハビリのゴールデンタイム」を作り出せる点にあります。この治療は、注射をしただけで自然に良くなるものではなく、筋肉が緩んでいる期間にどれだけ正しい関わりや使い方ができたかによって、その後の経過や最終的な効果が大きく変わります。
筋肉の緊張が和らいでいるこの時期は、これまで痙縮によって動かしにくかった関節を広げやすくなり、無理のない動きの中で正しい動かし方を脳に再学習させる絶好のチャンスとなります。いわば、リハビリを進めるための土台が一時的に整う「ゴールデンタイム」といえる状態です。
具体的には、手のひらが開きやすくなり洗いやすくなることで、汗や汚れがたまりにくくなり、皮膚トラブルや臭いの改善が期待できます。また、着替えの際に袖を通しやすくなるなど介助や動作の負担が軽減し、さらに筋肉のつっぱりや痛みが和らぐことで、安心してリハビリに集中できるようになります。
※なお、ボツリヌス療法には適応基準があり、すべての方が対象となるわけではありません。治療を検討する際は、まずかかりつけ医や専門医に相談することが大切です。
手のリハビリで大切なこと
手のリハビリは「根気」と「正しい方法」
手の動きは、日常生活の中でも特に繊細で細かなコントロールが求められるため、脳にとっても習得や回復が難しい課題のひとつです。そのため、リハビリを続けていても、手の機能回復はすぐに実感できるものではなく、「なかなか変わらない」と感じることも少なくありません。しかし、正しい方法で、無理なく、根気強く関わり続けることによって、痙縮をコントロールしながら、少しずつ生活の中で手を使える場面を増やしていくことは十分に可能です。
リハビリで大切なのは、「たくさんやること」よりも、「今の手の状態に合った正しい関わり方を続けること」です。誤った方法や自己流のケアは、かえって痙縮を強めてしまうこともあります。
「ボツリヌス療法を受けるべきか迷っている」
「自宅で行っているストレッチが本当に合っているのか不安」
「自分の麻痺の程度に合った手の参加のさせ方を知りたい」
このような疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ専門家にご相談ください。私たちは手の状態を丁寧に評価し、必要に応じて医療機関とも連携しながら、あなたに合った最適なリハビリプランをご提案します。その手で再び「できること」が増えていく喜びを、ぜひ一緒に目指していきましょう。

リハビリZONE岐阜でできること
リハビリZONE岐阜では、脳卒中後の手の痙縮に対して、状態やお困りごとに応じた多角的なサポートを行っています。
医療機関と連携しながらボツリヌス療法のご案内・相談を行うことができるほか、認知神経リハビリという手法を用いて、脳と手のつながりに働きかける機能回復リハビリを積極的に実施しています。単に筋肉を動かすだけでなく、「感じる・考える・使う」という過程を大切にしながら、日常生活の中で手が再び役割を持てるよう支援します。
脳卒中後の手の痙縮で困っている方、今のケアやリハビリに不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたの手の状態を丁寧に評価し、医療とリハビリをつなぐ最適なプランをご提案します!

リハビリZONE岐阜では、『今よりもっと楽しい未来へ』を合言葉に、最先端の機器と専門的な技術・知識を駆使してあなたの回復を最大限サポートいたします。
リハビリは 「できることを増やし、次の目標に向かう挑戦の連続」 でもあります。私たちは、利用者様が 「もう変わらない」「限界かな」 と諦めるのではなく、「もっと良くなる」 という前向きな気持ちでリハビリに取り組めるよう、全力でサポートしていきます。
是非一度、体験リハビリを受けてみてください!スタッフ一同心よりお待ちしております。
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