脳卒中のこと
2026.01.19
【理学療法士が解説】高次機能障害に対するケアの方法
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脳卒中の後遺症というと、手足の麻痺や言葉の出にくさをイメージしがちですが、実はそれ以上に退院後の生活を困難にするのが「高次脳機能障害」です。
「記憶」「注意」「感情」「判断」など、脳の司令塔としての機能がうまく働かなくなるこの障害は、外見からは分かりにくいため、「見えない障害」とも呼ばれています。
現場で多い悩みとして「気を抜いているように見える」「わざとやっているのではないか」と誤解されやすく、一番近くにいるご家族ほど、その変化に戸惑い、深く傷ついてしまうことがあります。今回は、そんな高次脳機能障害の具体的な症状と、ご家族が共倒れしないための関わり方について、深く掘り下げて解説していきます。
半側空間無視の正体
退院後、こんなことはありませんか?
「食事の左半分だけ手つかずで残っている」
「廊下を歩くと、必ず左側の壁やドア枠に体をぶつける」
「声をかけても、左側にいると気づいてもらえない」
これは単なる「不注意」や「視力の低下」ではありません。脳の損傷により、「左側の空間(または右側の空間)」に対する意識が抜け落ちてしまっている状態です。目では見えていても、脳がその情報を処理できず、「そこには世界が存在しない」かのように認識してしまうのです。これを「無視症候群」と呼びます。

【生活を守る具体的な対策】
ご本人は「見えていないこと」自体に気づくのが難しいため、周囲の環境設定がカギになります。
● 視覚的な手がかり(アンカー)を作る
テーブルの左端や、廊下の左側の壁に、目立つ「赤いテープ」や「黄色い付箋」を貼ります。「あの赤いテープまでが机ですよ」と目印にすることで、左側へ注意を向けやすくなります。
● 探索練習を取り入れる
食事の際、トレーを回して右側に持ってくるのではなく、「左側にまだおかずがあるかな?」と声をかけ、ご自身で左側を探してもらう練習を少しずつ行います。
● 指差し確認の習慣化
歩き出す前や動作の変わり目に、「左、よし!」と指を差して確認する習慣をつけると、事故防止に役立ちます。
料理の段取りができない!? 遂行機能障害とは
「料理が得意だった母が、キッチンで立ち尽くしている」
「味噌汁を作りながら、他の鍋を焦がしてしまう」
料理は、献立を決め、冷蔵庫の在庫を確認し、複数の手順を同時進行(マルチタスク)で行う、非常に高度な脳の活動です。
「目標を決めて、段取りを組み、効率よく実行する」という能力が障害されると、一つひとつの動作はできても、それらを組み合わせる一連の流れができなくなります。これを「遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)」と言います。記憶力の問題と間違われやすいですが、「やり方が分からない」のではなく「組み立てられない」のが特徴です。

〜「できない」を「できる」に変える工夫〜
脳の負担を減らすために、作業を「見える化」し、一つひとつ単純化します。
● 手順を紙などに書き出す
頭の中だけで考えず、紙に「1. 野菜を切る」「2. 鍋に水を入れる」と書き出します。終わったら赤ペンで消し込むことで、脳の混乱を防ぎます。
● マルチタスクを避ける
「煮込みながら洗う」はやめましょう。一つが終わってから次へ進む「シングルタスク」を徹底することで、失敗を減らせます。
● レシピの固定化
毎回違う料理に挑戦するのではなく、得意なメニューをいくつか決めて、その手順を反復練習することで、自信を取り戻しやすくなります。
すぐ怒る/イライラする 社会的行動障害
「少し待ってと言っただけで怒鳴られた」
「我慢ができず、子供のように感情を爆発させる」
ご家族にとって最も辛いのが、この性格の変化かもしれません。「あんなに穏やかだった人が…」とショックを受け、まるで別人の介護をしているような孤独感を感じることもあるでしょう。
これは「社会的行動障害」の一つで、感情や欲求をコントロールする脳の「前頭葉」などのブレーキ機能が壊れてしまった状態です。ご本人の性格が悪くなったわけでも、ご家族を嫌いになったわけでもありません。「脳のブレーキがうまく働けない状態」と理解し、見守る様な姿勢を忘れないことが重要です。

〜衝突を避けるためのポイント〜
●「病気のせい」と割り切る(実際には難しいのですが…)
感情的になっているのはご本人ではなく「脳の症状」です。「今はブレーキが効かない状態なんだ」と心の中で唱え、気持ちを一呼吸おいてクールダウンしましょう。
● 脳の疲労(易疲労性)を管理する
脳卒中後の脳は非常に疲れやすく、疲労が溜まるとブレーキ機能はさらに低下します。昼寝の時間を設ける、静かな環境で過ごすなど、脳を休ませることでイライラが減るケースも多いです。
脳卒中患者さんの家族ができること
●「頑張れ」の代わりになる言葉をかける
リハビリを応援したい一心で、つい「頑張って!」「もっとできるはず」と励ましていませんか?
真面目な方ほど、ご本人はすでに限界まで頑張っています。思うように動かない体と脳に一番焦りを感じているのは、ご本人自身です。そこへの「頑張れ」は、応援ではなくプレッシャーとなり、心を追い詰めてしまうことがあります。

● 自己肯定感を育てる声かけ変換
「結果」ではなく、リハビリに取り組んでいる「過程」や、小さな「変化」を言葉にしてみてください。
「まだ一人で歩けないの?」
→◎「先週より姿勢が良くなったね」
早く元気になって」
→ ◎「今日もリハビリお疲れ様。顔色が良くて安心したよ」
「もっと頑張らないと」
→ ◎「いつも頑張っているの、知ってるよ」
その一言が、孤独な闘いの中にいるご本人の心を支え、「また明日もやってみよう」という意欲の源になります。
介護者の休息(レスパイト)
「自分が休んでいる間に何かあったら…」 「夫が苦しんでいるのに、私だけ楽しんでいいの?」
そんな罪悪感から、24時間365日、気を張り詰めて介護をしていませんか? 介護者が倒れてしまったら、誰より困るのはご本人です。「介護者の笑顔は、最高の薬」です。あなたが心に余裕を持ち、笑顔で接してくれることが、ご本人の安心感と精神的な安定に直結します。
ショートステイやデイサービスなどの通所施設を利用してもらい、日頃は介護で時間が取れないご家族も美容院に行く、友人とランチをする、ただ一人でカフェでぼーっとする。それは「サボり」ではなく、長く続く在宅生活を支えるための「必要なメンテナンス」です。

高次脳機能障害によるトラブルや、復職への不安、そして何よりご家族自身のメンタルケア。これらは、家庭の中だけで解決しようとすると、必ず行き詰まってしまいます。
私たちリハビリ職は、ご本人の機能を回復させるだけでなく、支えるご家族のチームの一員でもあります。
「どう接したらいいかわからない」
「つい怒鳴ってしまって自己嫌悪に陥る」
そんな悩みも、私たちにご相談ください。一緒に考え、対策を練り、その人らしく笑って過ごせる時間が増えるようサポートします。

リハビリZONE岐阜では、『今よりもっと楽しい未来へ』を合言葉に、最先端の機器と専門的な技術・知識を駆使してあなたの回復を最大限サポートいたします。
リハビリは 「できることを増やし、次の目標に向かう挑戦の連続」 でもあります。私たちは、利用者様が 「もう変わらない」「限界かな」 と諦めるのではなく、「もっと良くなる」 という前向きな気持ちでリハビリに取り組めるよう、全力でサポートしていきます。
是非一度、体験リハビリを受けてみてください!スタッフ一同心よりお待ちしております。
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