リハビリのこと
2024.06.13
【完全解説】ボイタ法について
目次
ボイタ法とは?
リハビリZONE岐阜では様々なアプローチで利用者様の状態を改善する取り組みをしています。その中でも特徴的なのがボイタ法という手法です。ボイタ法は、もともと小児に対する治療方法として、1960年代にチェコの神経学者Václav Vojta(ヴァーツラフ・ボイタ)によって考案されました。主に発達障害のある小児の反射運動パターン(外部から刺激を与えると自動的に動きが引き起こされるという性質)を刺激することで運動障害を改善することが目的でした。その治療効果は医学的に認められ、現在では、その原理が脳卒中を含む成人の神経疾患の治療にも応用されています。成人においても特定の反射運動パターンを活性化することで、中枢神経系を再編成し、随意運動機能を改善できるという前提に基づいて治療が行われています。
ボイタ法の歴史
ボイタ法は、Václav Vojta博士の臨床観察と研究から生まれました。ボイタ博士は当初、脳性麻痺の子どもの診断と治療に力を注いでいました。博士は、神経障害のある子どもたちを観察している中で、zoneという特定のツボのような場所(zoneのことを日本語では”誘発帯”と呼んでいます) があることや、施術をする際のポジショニング(姿勢)のテクニックを応用すると、ある動きのパターンを引き出すことができることを観察しました。やがて博士は、これらのテクニックを応用して、中枢神経系を刺激して運動機能を回復・改善させることを目的とした体系的なアプローチ(=ボイタ法)へと改良していったのです。
ボイタ法の原理
ボイタ法は、4つのの重要な原則に基づいています
1.反射運動
ボイタ法の中心となる概念は”反射運動”です。これは、特定の刺激によって誘発される不随意運動反応を指します。つまり、患者は特定の刺激を加えられると、本人の意思に関わらず自動的に決まった動きをするのです。ボイタ法の反射運動とは異なりますが、反射というのは、お皿の下を叩かれると膝がポーンと伸びるのと同じように、自分の意志とは関係なく生じる動きのことです。これらの反応は、生まれつき備わっている運動パターンによって生じているものと考えられていますが、病気などにより神経がダメージを受けていると、抑制されたり変化したりしている可能性があります。
2.協調性運動の活性化
ボイタ法では、身体の特定の部位を刺激することで、全身の筋肉の協調的な活動を伴うような広い範囲の運動パターンの活性化を目指します。例えば、身体の一部分だけを刺激したのに、手を上げるために必要な肩甲骨の周りや腕、手の指に至るまで広い範囲の筋肉が活性化されて一緒に動くというイメージです。これらのパターンは、ハイハイする、寝返りをうつ、歩く、などの人間の基本的な運動機能の基礎となるもので、ボイタ法では基本の動きとして非常に重要視されています。
3.中枢神経系への刺激
この方法は、人間が生まれながらに持っている力である中枢神経系の可塑性、特に特定の刺激に反応して自己を再編成する能力を活用したものです。つまり、脳卒中などの病気によって一度壊れてしまった脳細胞や中枢神経が、ボイタ法による刺激を加えることでもう一度機能するようになる能力を賦活化するのです。これは、脳卒中後など神経が損傷してしまった後のリハビリテーションにとって極めて重要な部分となります。ボイタ法が脳卒中後に効果的なのもこの特性を活かしているからです。
4.早期介入
ボイタ法は、発達途上の脳に存在する高度な神経可塑性を利用するため、特に小児においては早期介入が重視されます。しかし、脳卒中などの神経学的な問題が起きてしまった成人にも効果があることがわかっており、成人においては時間が経過してしまっていても効果がみられます。
実際何をするの?
ボイタ法では、セラピストが利用者様を決まった姿勢に維持しながら、身体の特定のポイント(誘発帯=zone)に正確な圧力を加えます。このzoneと呼ばれる部位は身体の中にいくつもあり、どのzoneを使って施術していくのかは、セラピストが引き出していきたい反射反応に基づいて選択します。臥位(うつぶせ)と仰臥位(仰向け)の2つの体位が一般的ですが、側臥位(横向き)など他の体位で施術をすることもあります。
実際の施術では、セラピストは手を使って特定のzoneに一貫した優しい圧を加え、利用者様の反応を観察しながら一定時間この圧を維持します。その目的は、不快感や痛みを与えることなく、反射運動を活性化させることにあります。利用者様の状態によっては初回から十分な反応を引き出すことも可能ですが、セッションを繰り返すうちに、反射運動が起きるだけでなく、反射で起きていた運動が実際に意識してできる運動(随意運動)になっていくと考えられています。
主な体位と誘発帯
◉ 腹臥位(這い這い反射)
この体位では、胸部、腹部、四肢などのzoneを圧迫し、這うような動きを誘発することを目指します。体幹の安定と四肢の協調を促すことができます。
◉ 仰臥位(反射性寝返り)
骨盤や肩甲帯などのzoneに圧をかけ、寝返り運動を誘発します。身体を捻る力である、脊柱の回旋力を高め、身体の動きをよりよくコントロールすることができるようにします。
◉ 側臥位
この体位は、座ったり手を伸ばしたりする機能的な動作に重要な、脊柱の側屈と回旋を促すために用いられるものです。
ボイタ法が効果的な理由
ボイタ法には、いくつかの作用機序があると考えられています。
1.神経可塑性
特定の神経経路を繰り返し刺激することで、経路の再編成と強化を促して、運動機能の回復を助けます。
2.筋肉の活性化
反射的な動きを刺激することで、神経損傷によって十分に活用されていなかったり、適切にコントロールされていない筋肉を活性化させます。
3.姿勢とバランスの改善
体幹の運動パターンを活性化することで、脳卒中後に障害されがちな姿勢制御とバランス感覚を向上させます。
4.随意運動の促進
ボイタ法によって刺激された反射運動は、時間の経過とともに、意識下に行うことができる随意運動機能へと統合され、全体的な運動能力と機能的能力が向上します。
脳卒中リハビリテーションへの応用
脳卒中のリハビリテーションにおいて、ボイタ法は中枢神経系を刺激し、神経可塑性を促進することに重点を置いているため、とても有効であると考えられています。脳卒中では多くの場合、片麻痺(体の片側だけが動かしにくくなる状態)、痙縮(筋肉・関節が固まってしまう状態)、協調運動障害が生じますが、ボイタ法の原理を用いれば、これらすべてをまとめて対処することができます。
脳卒中リハビリテーションの目標
1.基本的な運動機能の回復
基本的な運動パターンを活性化することで、ボイタ法は転がる、座る、立つ、歩くなどの基本的な機能の回復を目指します。
2.痙縮の軽減
協調的な筋活動を重要視するボイタ法は、痙縮の軽減と筋緊張の改善に役立ちます。
3.協調性とバランスの改善
ボイタ法は、反射的な動きを刺激することで、日常生活で重要な協調性とバランス感覚を向上させることもできます。
4.機能的自立の向上
最終的な目標は、利用者様の日常生活を可能な限り自立させ、生活の質を高めることです。
ボイタ法に関する研究
ボイタ法の研究は、特に小児の集団や神経疾患の初期段階において、効果があるという前向きな結果を示しています。しかし、成人の脳卒中リハビリテーションにおける有効性に焦点を当てた研究は、それほど多くないのが現状です。理由としては、ボイタ法は手技を修得するのに時間がかかるため、ボイタ法自体を扱うことができるセラピストが非常に限られていることなどが考えられます。
<小児の研究>
脳性麻痺の小児において、ボイタ法は運動機能、姿勢、協調性を改善することが示されています。これらの研究は、神経可塑性の変化を促し、運動能力を向上させるという手法の有効性を裏付けていると考えられます。
<成人の研究>
脳卒中患者に特化した研究は限られているものの、その他の神経疾患に関する研究では、ボイタ法が運動機能、筋緊張、運動能力の改善につながることが示唆されています。脳卒中リハビリテーションにおけるボイタ法のメリットと最適な適応を体系化するためには、さらなる研究が必要です。
他の治療法との相性は?
ボイタ法は、人間の内側になる能力を引き出す事によって改善を目指しているため、他のリハビリテーションにおけるアプローチと併用することが可能です。例えば…
<理学療法>
ボイタ法と従来の理学療法の技術を組み合わせることで、反射的運動機能と随意運動機能の両方に対応し、全体的な治療効果を高めることが期待できます。
<作業療法>
ボイタ法と作業療法を組み合わせることで、機能的能力や日常生活能力を向上させることが期待できます。
<言語療法>
言語や嚥下に問題のある脳卒中患者さんでは、ボイタ法を集学的アプローチの一部として用いることで、これらの問題に対処することができるのです。
<神経リハビリテーション>
ボイタ法を、拘束運動療法やロボット支援療法など、他の神経学的リハビリテーション技法と組み合わせることで、回復への総合的なアプローチを提供することができます。
とった形で、従来の治療方法にボイタ法を併用することで、その相乗効果をうむ事も期待できます。
ボイタ法の課題
ボイタ法には大きな可能性が秘められている一方で、留意すべき課題や問題点もあります。
1.セラピストのトレーニング
ボイタ法は、かなり専門的なトレーニングと専門知識が必要です。そのため、国家資格をもった理学療法士であってもボイタ法を自在に扱うことができるセラピストは一握りしかいません。そのため、利用者様がボイタ法の施術を受けたいと思っても、利用できる施設は限られているのが現状です。日本ボイタ協会によると、2023年3月時点でのボイタ協会の正会員数は、医師:20名、理学療法士:41名、合わせて61名しかいないのです。
2.患者側の受け入れ
ボイタ法は基本的には痛みのない施術ですが、zoneを刺激して反射運動が出てくるまでの間は一定時間同じ姿勢でいる必要があります。そのため、重度の痙縮や痛みがある場合、人によっては同じ姿勢でいることを不快に感じたり、耐えるのが難しいと感じることがあるかもしれません。
3.個人差
ボイタ法の有効性は、個々の患者の状態、神経学的損傷の程度、その他の要因によって異なる可能性があるため、結果の保証はできないのです。ボイタ法に対する反応が出やすい人もいれば、出にくい人もいて、その治療効果は様々です。しかしながら、これはどのような手技においても共通していることですから、ボイタ法だけの問題ではないかもしれません。
4.さらなる研究の必要性
脳卒中リハビリテーションにおけるボイタ法の有効性、最適なプロトコール、長期的な転帰を完全に理解するためには、より多くのデータを収集する必要があり、今後さらなる研究が必要です。
まとめ
ボイタ法は、脳卒中リハビリテーションにおける個性的かつ有望なアプローチです。反射的運動パターンと神経可塑性の原理を活用して、運動機能、協調性、全体的なQOLを改善することを目指します。成人の脳卒中患者におけるボイタ法の有効性を完全に立証するにはさらなる研究が必要ですが、既存のエビデンスと臨床経験から、ボイタ法は包括的なリハビリテーション・プログラムの貴重な構成要素となりうることが示唆されています。ボイタ法を他の治療法と統合することで、医療提供者は脳卒中からの回復者に対し、より総合的で効果的な治療を提供できる可能性があります。
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