脳卒中のこと
2025.07.22
【脳梗塞 最前線】 ~原因・症状・危険因子から治療・予防まで~
目次
脳梗塞について
脳梗塞は、脳の血管が詰まることで血流が遮断され、脳細胞に深刻なダメージを与える疾患です。近年、日本国内の脳卒中患者のうち約7割が脳梗塞とされ、2020年時点では約174万人に上るとも報告されています。死亡原因だけでなく、後遺症による生活の質の低下も大きな問題となっており、予防が重要視されています。
生活習慣病や運動不足を背景に、脳梗塞のリスクが高まる人が増えています。また、遺伝的な要因やストレスによる血圧の変動など、日常生活のなかには脳梗塞に結びつく要素が多く潜んでいます。自分の健康状態を客観的に把握し、どのようなライフスタイル改善が必要なのかを知っておくことが大切です。
本記事では、脳卒中との違いをはじめ、脳梗塞の症状や発症メカニズム、さらに危険因子やチェック方法、予防策まで幅広く解説します。知っておきたいリスク要因を整理し、日常生活の中でできる対策を講じることで、脳梗塞の発症をできるかぎり防ぎ、万が一の際も早期発見・治療につなげましょう。
脳梗塞と脳卒中の関係と違い
まずは脳梗塞の定義と、脳卒中との関係性を整理し、それぞれの違いを理解しておきましょう。
脳卒中とは
脳卒中は、脳の血管がなんらかの理由で障害を受けて起こる疾患の総称で、大きく分けて脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の三つに分類されます。脳卒中のうち、脳出血やくも膜下出血は脳への“出血”が主体です。脳卒中は高齢者に多い病気というイメージがありますが、生活習慣の乱れやストレスによって中年層でも増加傾向がみられるため、あらゆる年代で注意が必要です。
脳梗塞とは
脳梗塞は脳卒中という大きなカテゴリーの中に含まれる一つの病態です。脳出血やくも膜下出血は脳の血管から出血するのが原因であったのに対して、脳梗塞は、血管(動脈)に血栓などが詰まって流れを閉塞し、その結果脳の組織が酸素や栄養不足に陥ることで発症するのが特徴です。

脳卒中と脳梗塞の違い
脳卒中のなかでも脳梗塞は、血液の流れを妨げる“詰まり”が原因で発症するのに対し、脳出血やくも膜下出血は“出血”が主体です。いずれも神経細胞を傷つけ後遺症をもたらす危険性がありますが、脳梗塞は比較的ゆるやかに進行するケースが多いとされます。とはいえ初期の症状を見逃すと、急激に状態が悪化することもあるため、あらかじめ特徴を把握しておくことが重要です。
脳梗塞の症状と発症メカニズム
脳梗塞の主な症状や、どのようなプロセスで血管が詰まり発症に至るのかを解説します。
脳梗塞の症状
脳梗塞は脳のどの部分が障害されるかによって症状が異なります。典型的には片側の手足の麻痺やしびれ、または言語障害があらわれることが多く、人によっては意識障害や呼吸困難などの重篤な状態に陥る場合もあります。特に発症直後の判断が遅れると、障害が広範囲に及んで後遺症が強く残るリスクが高まるため、どんな症状が危険なのかを知っておくことが大切です。脳梗塞かもしれないと思った時にチェックするべき項目についてまとめた記事もあるので参考にしてみてください。(参考:脳梗塞かも?と思った際に使える10個のチェックリスト)

脳梗塞のメカニズム
血管が実際にどのように詰まるのか、そのメカニズムを理解しておくことは予防や治療の上でも非常に有用です。
脳梗塞は血液の塊(血栓)ができて脳の血管が詰まってしまい、脳細胞に血流がなくなる結果酸素や栄養などが供給されなくなってしまう状態です。脳梗塞が生じる背景には、生活習慣病などによって動脈硬化が進行し、血管が細くなっていることなどが関係します。最終的に脳に血液が流れなくなると脳細胞が壊死してしまいます。この過程は高血圧や糖尿病といった生活習慣病によって促進されるだけでなく、不整脈など心臓疾患との関連でも生じやすくなるため、生活習慣の改善はもちろんのこと、定期的に検診を受けたりすることも必要です。
脳梗塞の発症部位別による違い
脳梗塞はどの血管が詰まるかによって様々な症状が出現します。脳梗塞を疑うべき代表的な症状として、片側の腕や足のしびれ、突然言葉が出にくくなる失語症状、顔の片側がうまく動かないなどが挙げられます。さらに、視野が狭くなったり、二重に見えるような視覚障害も見逃せないサインです。こうした症状はいずれも急に起こることが多いため、軽度な症状でも「何かおかしい」と思ったときは、すぐに受診を検討することが重要です。
間脳の障害
間脳は視床や視床下部を含み、自律神経の調節やホルモン分泌、意識維持といった生命活動の基盤を支えています。主な症状は以下の通りです。
● 体温や血圧が乱れるなどの自律神経障害
● 重度の場合、意識障害
間脳梗塞は他の部位に比べて頻度は少ないですが、全身への影響が大きい点が特徴です。
小脳の障害
小脳は、身体のバランス調整や滑らかな運動に深く関わっています。小脳が障害されると、以下のような症状がみられます。
● 歩行時のふらつきや姿勢保持の困難
● めまい・吐き気
● 発話が不明瞭になる(構音障害)
● 手足に力は入るが動作がぎこちない(麻痺ではない)
などの症状が起こります。しかし、一般的に脳梗塞の症状に多い“片側の手足にだけ力が入らない”といったことは起これいません。小脳だけに梗塞が起きていると、”麻痺はなくて力は入るのにスムーズに動かせない”という特徴的な症状になります。これを協調運動の障害といいます。(参考:脳梗塞の症状を知ろう-小脳・間脳・脳幹 編)
大脳の障害
脳の部位の中で一番大きいのが”大脳”で、様々な役割を果たしています。部位ごとに「前頭葉」「側頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」といった名前がついていて、さらに○○野(〜や)とか、○○中枢(〜ちゅうすう)などと細かくエリアが分けられています。障害を受ける部位により複雑な症状が出現します。前頭葉は運動や思考、感情のコントロールを担っています。

【前頭葉の障害】
前頭葉は運動制御、発話、思考や感情のコントロールなどを行なっています。障害されると以下のような症状がみられます。
● 片麻痺
:反対側の手足や顔の意図的な動きが困難
● 高次機能障害
:判断力低下、注意散漫、感情コントロール不足
● 失行・連続動作障害
:一連の動作(例:服を着るなど)がスムーズにできない
● ブローカ失語
:言葉は理解できても発語や書字が困難
【側頭葉の障害】
側頭葉は、聴覚・記憶、言語理解(ウェルニッケ中枢)、空間認識などを担っています。障害されると以下のような症状が出現します。
● 左側頭葉障害
:意味が分からなくなる「感覚性失語」や、錯語・錯読などの言語認知障害
● 右側頭葉障害
:音や形は認識していても理解できない、「見当識障害」
● ウェルニッケ失語
:流暢だが内容が支離滅裂で会話がかみ合わない
【頭頂葉の障害】
頭頂葉は身体感覚の知覚と統合、空間認識・計算・文字処理などを司っています。障害されると以下のような症状がみられます。
● 感覚障害・しびれ
:反対側の手足で痛み、温度、触覚などが分からない
● 失認・失行
:触覚で物の形が認識できない、文字や計算ができない
● 失行(特に右側)
:麻痺がないのに、服を着たり食事したりといった行為ができない
【後頭葉の障害】
後頭葉は視覚情報の処理・認識を司っているため、損傷すると以下のような症状がみられます。
● 視覚性失認
:眼球は動くが「見えていない」状態。自覚がないこともある
● 相貌失認など
:見慣れた顔や物が認識できない
特に前頭葉の運動野や連合野が障害されると、日常生活動作(ADL)への影響が大きくなります。
脳梗塞が起こる機序
血管が詰まるメカニズムには、大きく分けて血栓によるものと、心臓内にできた血栓が飛んで脳血管を塞ぐものがあります。動脈硬化は血管の内壁にプラークがたまり、血流を阻害しやすい状態をつくります。また、心房細動などの不整脈を持つ方は血栓が形成されやすく、心原性脳塞栓症を発症するリスクが高まるため、早めの治療や定期検診が求められます。
脳梗塞のタイプは大きく分けて3種類あります。

<心原性脳塞栓症>
心臓でできた血栓が血流に乗って飛んできて脳の血管を詰まらせる
<アテローム血栓性脳梗塞>
コレステロール値が高い状態が続くと太い血管でも詰まってしまう
<ラクナ梗塞>
細い血管が詰まるため症状が軽く、気づかないこともある
脳梗塞の危険因子とリスクファクター
生活習慣病(高血圧・糖尿病)
脳梗塞が起こるリスクを高める要因は多岐にわたります。生活習慣病として代表的な高血圧や糖尿病、脂質異常症などは血管機能を低下させ、動脈硬化を進展させるため、注意が欠かせません。
高血圧は血管に常に大きな圧力をかけ続けるため、動脈硬化を進行させやすいとされています。糖尿病も血管を傷め、血管理想へ悪影響を及ぼすので注意が必要です。放置すると細小血管から大血管まで至る所で障害が起こりやすくなり、脳の血流が途絶えたときのダメージが大きくなります。
動脈硬化を招く原因と血管年齢
高コレステロールや喫煙習慣は血管内壁にプラークを形成し、動脈硬化を進めます。運動不足や偏った食生活も血中脂質を増加させるため、結果として血管年齢を高めてしまうのです。定期的に血液検査を行い、コレステロール値や中性脂肪値などを管理することで、動脈硬化によるリスクを早期に発見できます。
心疾患・不整脈との関連
心房細動をはじめとする不整脈は、心室内で血栓が作られやすくなるため、心原性脳塞栓症の大きな原因となります。心臓から飛んだ血栓が脳の血管を塞ぐと、急激に広範囲で脳梗塞が進行してしまうケースもあります。定期的な心電図検査や内科的フォローを受けることでリスクを最小限に抑えることができます。
喫煙・飲酒・ストレス
また、日常生活における喫煙や過度の飲酒は血管を収縮させて血圧を上昇させる要因となり、ストレスも同様に自律神経を乱して血管にダメージを与えます。こうした危険因子が重なれば重なるほど発症リスクは高まり、再発率も上昇します。
喫煙は血管を収縮させ血圧を上昇させるとともに、動脈硬化を促進する物質の分泌を増やし、脳梗塞へとつながる悪循環を産みます。過度の飲酒は肝臓の働きを阻害したり血圧を乱高下させたりするうえ、ストレスもまた交感神経を過度に刺激し血管を酷使する要因です。これらを適切に管理し、禁煙や節酒、ストレス解消法を実践することで、リスク低減が期待できます。

遺伝的要因の影響
脳梗塞の発症には家族歴の影響も無視できません。遺伝的に動脈硬化や血圧調節が不安定な体質を受け継ぐことで、脳後遺症のリスクが高まる場合があります。ただし、望ましくない生活習慣を避け、定期的な健診や健康管理を行うことで、遺伝要因を持つ方でも発症確率を抑えることができます。特に家族歴がある方は定期的な健康診断を怠らないようにしましょう。症状が出る前の段階で血管年齢を意識し、適切なライフスタイル対策を行うことが、脳梗塞リスクを大幅に低減する鍵となります。
ABCD2スコアとは
一過性脳虚血発作(TIA)を起こした後の脳梗塞発症リスクを評価する指標として、ABCD2スコアが用いられます。年齢や血圧、症状の種類や持続時間などを点数化し、緊急度や再発リスクを客観的に把握する手段です。このスコアによって入院しての治療が必要かどうかの判断が行われます。これをご自身で計測することは困難ですので、医療機関を受診して医師によりスコアがつけられます。

【ABCD2スコア】
Age(年齢)
・60歳以上→1点
Blood pressure(血圧)
・収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上→1点
Clinical features(症状)
・片側の脱力→2点、脱力を伴わない言語障害→1点、その他→0点
Duration(持続時間)
・60分以上→2点、10〜59分→1点、10分未満→0点
Diabetes(糖尿病)
・糖尿病がある→1点
上記の点数を合計して評価し、4点以上であれば入院しての治療が行われます。
脳梗塞になりやすい年齢・性別
統計的にみられる年齢層や性差の傾向を把握し、特に注意が必要なライフステージを確認します。脳梗塞は高齢者に多いイメージが強いですが、働き盛りの世代での発症も増加しています。子育てや仕事など、ストレスフルな生活環境が血圧や血管に負担をかけやすいことが要因の一つです。さらに更年期の女性や高血圧を抱える中年男性なども発症リスクが高く、家族歴や既往症がある場合は注意が必要となります。
男性は一般的に女性より生活習慣病のリスクが高いとされますが、女性も閉経後にホルモンバランスが変化することで血圧が変動しやすくなります。そのため、男女問わずライフステージに応じた健診や対策を行うことが重要です。特に40代以降は健康診断の頻度を増やすなど、早期に兆候を見つけられる仕組みを整えましょう。
脳梗塞 ~受診から検査・診断の流れ~
脳梗塞の疑いがある場合に、どのようなステップで医療機関を受診し、何を検査するのかを紹介します。
脳梗塞かも?と思ったら
脳梗塞が疑われる症状が出た場合、まずは早急に救急対応が可能な医療機関を受診することが大切です。CTやMRIなどの画像検査によって、梗塞の部位や広がりを特定し、急性期かどうかの判断が行われます。血液検査や心電図を併用することで、合併症や心原性のリスクも評価し、最適な治療プランを組み立てるのが一般的な流れです。
軽度の症状でも油断せず、疑わしい症状があったら迷わず救急要請を行うのが賢明です。時間が経過するほど脳組織のダメージは進行し、リハビリテーションも長期化しがちになります。スピーディな受診こそが後遺症の軽減や命を救うカギになるため、普段から救急病院の場所や受診方法を把握しておきましょう。
FASTで脳梗塞チェック
脳卒中の早期発見に有効なセルフチェックとして知られるのが“FAST”です。F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の麻痺)、S(Speech:言語障害)、T(Time:時間意識)の頭文字を取ったもので、どれか一つでも異常が見られたら脳梗塞の疑いが高いと考えられます。これらは突然起こることが多く、時間経過とともに悪化するケースもあるため、すぐに医療機関へ連絡することが大切です。(参考:脳梗塞やTIAを疑った時にやるべきこと<FAST>とは?)

医療機関での検査
医療機関では、実際にみられる症状を診察し、脳梗塞が疑われる場合には早急にCTやMRIなどの画像検査、血液検査などが行われます。発症から4.5時間以内であればtPA(血栓溶解)療法という、脳梗塞の原因となる血栓を溶かすための点滴薬を治療することが可能となるからです。実際の医療現場では、ドラマでみるような緊迫した空気の中で検査や治療が行われていきます。
脳梗塞の治療法
急性期の迅速な救命処置から、その後の日常生活復帰に向けたリハビリテーションまでの一連の治療法を解説します。
急性期の対応
脳梗塞の治療は、発症からの時間と発症したタイプによって大きく変わります。急性期においては、静脈内に血栓溶解薬を投与して詰まった血管を再開通させるtPA治療や、カテーテルを使って血栓を直接除去する方法がとられます。これらの処置は発症直後の数時間以内に行うことが有効とされ、後遺症を最小限に抑えるためには時間との勝負といえます。

急性期のリハビリ
急性期の治療を終えた後は、リハビリテーションが重要になります。脳には神経可塑性といって、損傷した部分の機能を他の部位で補う能力があるため、適切なリハビリと専門家の指導を受けることで生活機能の回復をめざせます。自宅復帰を目標とする場合は、作業療法や理学療法を取り入れながら、日常動作の練習や筋力・柔軟性の強化を継続して行うことがポイントです。
再発防止のために必要なこと
脳梗塞は再発も多いため、食事や運動、定期健診など予防につながるライフスタイルのポイントを押さえましょう。
バランスのとれた食生活
脳梗塞を一度発症すると、血管が脆弱になっているため、再発リスクが高まります。そのため、食事管理では塩分・脂質に気を配り、野菜や魚を中心とした和食メニューを積極的に取り入れるなど、栄養バランスの良い食生活を心がけることが大切です。適度な運動を日常に取り入れることで血流を改善し、体重や血圧のコントロールにもつなげられます。

ストレスのない生活習慣
定期的な健診や通院で血圧や血液検査の数値を把握し、必要に応じて薬物療法を継続していくことも欠かせません。また、ストレスは血圧の変動要因となるため、充分な休養やリラクゼーション法を取り入れることが望まれます。こうした生活習慣を継続することで、脳梗塞の再発リスクを大きく抑えることが期待できるでしょう。
まとめ
本記事で解説した危険因子や症状を踏まえ、日常生活での積極的な予防と早期発見の姿勢が重要です。脳梗塞は、命を脅かすだけでなく、高い確率で後遺症が残る可能性がある重大な疾患です。しかし、その発症リスクは高血圧や動脈硬化の管理、禁煙や適度な食事・運動習慣など、個々の努力や生活習慣の改善で大きく下げることができます。家庭や職場でも脳梗塞の前触れサインを把握しておくことで、早期に受診して重症化を防ぐことが可能になります。
再発防止にも同様に、健康診断や継続的な治療、心身のストレスコントロールが大切です。自分のリスク要因を理解したうえで、生活スタイルを見直し、少しずつ改善を続けることが脳梗塞予防の近道といえます。重大な症状が出ないうちに行動を起こし、日々の習慣を大切にしながら健康的な未来を守っていきましょう。

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